沙萠さん、凄い! |
「 埴 沙萠 (はに しゃぼう) って、誰れ? 何をする人? 」 ほとんどの人はそう言うと思う。 私もNHKテレビのドキュメンタリー「足元の小宇宙」を見るまでは知らなかった。 埴 沙萠 さんは植物生態写真家である。 10代の頃、作家でサボテン研究家の龍膽寺雄 氏に師事して、過酷な環境で生き抜く砂漠植物に傾倒する。助手として本に載せるサボテンの写真を撮影するうちに植物生態撮影に専念するようになる。 「たねのゆくえ(科学のアルバム)」 「きのこ」 「足元の小宇宙」 「植物記」など30冊を超える図鑑や写真集を出版された植物生態写真の第一人者だった。 「足元の小宇宙」が始まると、草花の写真というと「静止した、可憐な美しい絵のようなもの」といった既成概念が消し飛んだ。顕微鏡下の土筆の胞子はダンスを踊るし、実が弾けて遠くへ種子を飛ばす草花、煙のように幻想的に舞うシイタケの胞子、葉の縁から真珠のような水滴を滴らせるワレモコウ…沙萠さんの植物の写真は躍動的で、植物の生きる知恵と営みが感じられ、画面に引き込まれ夢中になった。 沙萠 さんは言う。 「ある一つの植物のしぐさっていったらおかしいけどもね。 花が開くのも、種を飛ばすのも、一つの…植物にとっては、 動物的にいうとしぐさだよね、動きだね。生活。命の姿だね。 それを撮りたいだけの事だね」 沙萌さんが撮る植物の写真には、「草や木の美しさに生命 の英知を知って欲しい」という願いがこめられている。 もっと知りたくなって、「埴 沙萠」で検索をするとホーム ページが見つかった。 ホームページ 「埴 沙萠の植物記」 http://ciabou.com/ciabou/ 沙萠さんは文章も判りやすく上手で、「植物記」や「Salon de 沙論」のような真面目なコーナーも魅力的だけれど、 「Loft」や「沙萠写房」のコーナーは沙萠さんの面目躍如というか、ユーモアと遊び心が溢れていて楽しい。 例えば、沙萠写房(自宅)のチャイムは女性の乳房の形をして いる。その説明がふるっている。 「オッパイの呼び鈴。もとは卓上ベルでした。改造してチャイムにしました。でも20年もたって、しぼんできました。やさしく揉んでやらないと元に戻らないので、チャイムは鳴りっぱなしです。」 |
「Loft−作品展示場」のコーナーは、奥さん制作の野菜人形、草木の芽生えの様子、可愛いカエルの写真などが載って いた。 野菜人形の説明 「人形制作は沙萠写房の女主人・杉山雅子。最近の野菜は、みんなまっすぐで、人形を作りにくいと作者は、ぼやいています。」 「生きていると面白いことばっかりだ!」 死の直前、2月3日の「絵日記」では、水を入れたコップと酒を入れたコップを並べ、ヒヨドリは酒の方ばかりを飲む、呑兵衛友だちだと悦んでいる。 沙萠さんは、酒を愛し、身近な草や木と心を通わせ、好奇心旺盛、ユーモア(遊び心)いっぱいの、生き方の達人だった。 ブログのように日々の出来事をUPされていた「絵日記」が 2月3日に「体力が低下して…」と書かれた後、20日以上 途絶えていた。 「入院されたのかなあ?もう元気になられて再開されたかも?」 と思ってHPを開けたら、「お別れのことば」が飛び込んできて ビックリした。 埴沙萠さんは2月23日午後7時42分、享年85歳で永眠されたそうだ。自分の死期を悟り、お別れの言葉を用意して、死後、ホームページにUPするように頼んでおいたのだと思う。 <彼岸もこれまた一楽> 私、埴沙萠は85年住み慣れた娑婆を後にして、2月23日 にこちらの岸へとやってきました。途中三途の川の渡しで、 船頭をやっていた赤鬼青鬼と仲良くなって、いま河原で 酒盛りをはじめたところです。 鬼たちは、ちょっと見はコワモテですが、意外と気が小さ くて「最近は渡し賃を値切る亡者がいて」なんてぼやいて います。 あれっ、いま閻魔さんからメールがきました。なんでも針 の山のようなシャボテン公園を作って欲しいとのことです。 はっはっ、彼岸もこれまた一楽です。 一足お先にこちらの岸にやってきましたが、みなさんも そのうちこちらにお越しの際は、ぜひ埴沙萠をお訪ねくだ さい。一献やりましょう。お待ちしております。 2016/02/29 自分の死期が迫っていることを知って、悠揚迫らざる態度を貫ける人は滅多にいないと思う。 沙萠さん、凄い! |
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