タイトルを何にしようか迷った。
「格言」でもないし、「座右の銘」ではぴったりしない。
素直に、「自分を励ます言葉」とするのが一番あっているかなと思った。
人生の節目節目で、自分に言い聞かせ、自分自身を鼓舞してきた、そんな幾つかの言葉を思い出して、恥ずかしながら私の来し方を振り返ってみようと思う。

 私は小さい頃から少々変わり者だったかもわからない。
母親に叱られると、軒下の犬小屋にもぐり込んで飼い犬と一緒に寝たり、中学生の時には、退屈な授業だと一番前の席(チビで近視だったので)で大あくびをしたり、平気で居眠りをした。それで、中学生の時のあだ名はずっと「アクビ」だった。
とにかく、人と同じ事をするのを潔しとせず、発想がユニークというか、屁理屈をこねて困らせるのが得意だった。
 高校生になると、「わだつみ会」に入って原爆実験反対の署名集めに走り回ったり、生徒会活動に没頭して、成績は下降線をたどった。普通の生徒からの「ちょっと変わった奴」という陰口も耳にした。
そういう時は、
「汝の道を行け、人をして語るにまかせよ」と自分自身に言って、開き直っていた。

 けれども、そうとばかり言ってられない時がきた。
大学時代は60年安保闘争の絶頂期。
全学連の中央委員や学芸大自治会の書記長にまつりあげられて、連日、デモや集会に明け暮れた。
おまけに学大スパイ事件の被告になった。(7年間の裁判の末無罪になった)。そして、卒業間際に2ヶ月の停学処分で1年間留年の憂き目…。卒業時、大阪府教員の採用試験に合格していたけれど、裁判中のため採用の見込み無し。


 大学を卒業したけれど就職出来ず悶々の日々…。
就職浪人の暗い日々を、
「人生に袋小路はない」「不思議の世渡り、辛抱していたら、そのうち、きっと道が開ける」と言って、母は夜遅くまで働きながら励ましてくれた。
私も、この言葉を自分に言い聞かせて頑張ることができた。


 そして、恩人ともいえる親切な人たちと、時代が私を助けてくれた。
日本経済が絶好調に向かう時期で、教育大の卒業生は条件の良い一般企業に就職し、新卒教員が絶不足の時代だった。熱心なクリスチャンだった近所の I さんが、市内に新設4年目のカトリックの私立小学校が男性教員を探しているのを知り、紹介して下さり、保証人までなって下さった。
生意気な左翼かぶれが、場違いのカトリックの小学校に入り、周りはシスターと若い女性ばかり…。息苦しくて、夕方になるとホッとした。そんな時、伯父(父の7人兄弟で唯一人生存していた)は、
「辛抱する樹に花が咲く」と言って励ましてくれた。
 
そのうち男の先生も増えてきて、遊ぶ友達もできて、居心地がよくなってきた。

 上司には度々逆らい、偏屈で、世間知らずの私は、随分扱いにくい教員だったと思う。けれど、シスターでアメリカ人の初代校長は、「一度入学させた子どもは成績が良くなくても問題があっても最後まで面倒を見る」という責任感があって心の広い素晴らしい人格者だったので、私にも寛容で温かい心で包み込んでくださった。
しかし、学生時代ろくに勉強せず、人間的にも未熟だった私は、よく遅刻をし、授業もへたで、柔軟さに欠け、我慢し切れ無くなるとキレて体罰をしたり、不機嫌な表情をするなど、今思い出しても恥ずかしいことがいっぱいあった。周りの多くの人に随分嫌な思いをさせたり迷惑をかけたと思う。
また、そそっかしいところもあって、思い違い、勘違いによる失敗も数多くあった。
その度に自分の未熟さに思い至り、後悔し、自己嫌悪に苛まれたりした。
そんな時、いつも、
「この恥ずかしさ、申し訳けなさ、失敗を肝に銘じて同じ過ちを繰り返さないようにしよう。自分の成長の糧に転化しよう。」と自分自身に言い聞かせてきた。
38年間の奉職中に何回、何十回この言葉を心の中で繰り返してつぶやいたことだろうか…。

 人が生きて行く途上、たくさんの悲しさ、不安、失敗、恥ずかしさに遭遇すると思う。こればかりは仕方がない。
そんな時、いつまでも引きずらないで過ぎた事を振り切って、自分を励まし鼓舞する手段は何だろうか。人によっては祈りだったり、お酒だったり、愛唱歌だったり、いろいろだと思う。
私は、その都度自分につごうの良い「自分を励ます言葉」を見つけて、少なくとも前向きに一歩踏み出すことが出来たように思う。
 何事にも誠実でありたいと思い、幾らかは失敗を自分自身の成長の糧に転化出来たかもわからない。歳をとるにつれ、多少は角が取れ穏やかになったようにも思う。
しかし、私自身の努力は微々たるもので、今日、無事平穏に過ごすことができるのは、やはり周りの人たちの寛容さ、優しさに恵まれ救われてきたお陰だとも思う。

 もしも、不運に打ちひしがれていたり、憂鬱な気分に沈んでいる方がいたならば、何か「自分を励ます言葉」を見つけて、自分自身を鼓舞し、前向きに2006年の一歩を踏み出して欲しいと切に願っている。

 とは言うものの、ついこの間も、ボヤーとしていて隣の席の人につられて、出番でもないのに立っていって、恥ずかしい思いをした。還暦をだいぶ過ぎたのに、そそっかしい性格は幾つになって直らないらしい。
さすがに2、3日は落ち込んだが、相変わらず、「このことを肝に銘じて同じ失敗はしないようにしよう」とつぶやいている…。
     


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