映画館に足を運んだのは何年ぶりだろう?
新聞の読者欄を読んでいて、次の文章がふと目にとまり、無性にその映画を見に行きたくなった。


  すてきな女優になったりえさん
         主婦 牧 政子54 静岡県清水市
 第57回毎日映画コンクールで女優助演賞になった宮沢りえさんが、『楽しいことばかりではありませんでした。けれども、いろんな事が糧になって、人の心の痛みも、少しは表現できるようになったのでは』と語っていました。この言葉に重みを感じました。
 以前は、りえさん出演のドラマを『やせちゃって。いろいろなことがあったから』などと、りえさん自身を重ねて見ていました。
 しかし、昨年放映されたテレビドラマでは、りえさんではなく、その演じる人物に集中して見ることができました。彼女の成長を感じました。そして、映画『たそがれ清兵衛』で『朋江』として登場するや、私は思わず息をのみ込み魅入られてしまいました。
 これまで多くを語らなかったりえさんは、美しさに加え、すてきな女優になっていました。今回の快挙に心から拍手を送ります。」

   − 2003.2.12 毎日朝刊 4面 −

 藤沢周平の愛読者であり、山田洋次監督のファンであり、宮沢りえちゃんのことが気になる私としては、この際何としても「たそがれ清兵衛」を見ないと悔いが残るにちがいない。そう思って、再上映している映画館を探し見に行ってきた。 
 感動した。本物の時代劇を堪能した。
美しい庄内地方の四季を背景に、つつましく生きる下級武士の姿が情感たっぷりにリアルに描かれていて、果たし合いの場面なども迫力があった。主演の真田広之がすばらしかった。
そして、りえちゃんは、気品があって匂い立つような美しさだった。慎み深く、優しく、そして凛としたところがある武家の若い女性を魅力的に演じていた。牧さんと同様、私もりえちゃん演じる「朋江」に魅入られてしまった。 


 そして、以前読んだ女優の三田佳子さんの言葉を思い出した。
「ワー、きれいだワと思った方が何人もありますが、そういう方が、案外女優として伸びない。きれいすぎてお人形のようになってしまう。」
痛々しいほどにやせていた頃のりえちゃんは、引き裂かれるような心の痛み、悲しさ、辛(つら)さにじっと耐えていたのだと思う。その辛さ、苦しさを糧にして人間的にも大きく成長し、美しさに加え、人の心もわかる素晴らしい女優として大きく開花したのだ。
「りえちゃんに乾杯」と叫びたい。
 
 昨今の若者の中には、苦しいこと、つらいことから逃避し、辛抱して乗り越えるより、安易なところに引き籠もろうする傾向が見えるのは何故だろう?
「辛抱する木に花が咲く」「艱難辛苦、汝を玉にす」という諺を見事に実証したりえちゃんに、やっぱり拍手喝采を送りたい!


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